タイ王国(以下、タイ)は 2022 年 6 月 9 日、保健省告示により大麻を麻薬リストから除外し、アジアで事実上初めて大麻を非犯罪化 した。しかしその後の無規制に近い市場拡大を受けて方針を転換し、2025 年 6 月に医療用途へ限定する規制強化を施行、さらに 2026 年 5 月に販売規制を追加 した。タイは大麻を麻薬に再分類したわけではなく、「処方箋必須の管理対象ハーブ」として扱う独自の枠組みに移行している。本記事は 2026 年 5 月 17 日時点で確認できる範囲で現状を整理する。
ざっくり言うと
- 何が起きたか — タイは 2022 年にアジア初の大麻非犯罪化を行ったが、2025-2026 年に医療用途限定へ大きく方針転換した
- なぜ重要か — 「合法化したら何が起きるか」「方向転換は可能か」をリアルタイムで示すアジアでの最大の実験で、東南アジア諸国の議論に直接影響する
- 日本との関係 — 日本人観光客のタイ訪問が多く、2025 年以降は観光地でも処方箋なしで大麻を購入できなくなった(渡航前の情報更新が必須)
何が起きたか
2022 年: 麻薬リストからの除外
- 2022 年 6 月 9 日: タイ保健省の アヌティン・チャンウィーラクン(Anutin Charnvirakul) 大臣(当時、プームジャイタイ党党首)が主導し、大麻を麻薬第 5 類から除外する告示が施行
- 当初の政策意図は医療用大麻と農業多角化とされたが、嗜好用使用を明示的に禁止する法律が未整備で 「規制の空白」 が生じた
- 解禁後、観光地中心に 数千店規模の大麻ショップ が急増、無秩序な市場形成への懸念が公衆衛生当局から表明された
2025 年 6 月: 医療用限定への規制強化
- 2025 年 6 月 26 日、官報(Royal Gazette)に新たな規制が公示され即日施行されたと報じられている
- 大麻(特に花穂)を「管理対象ハーブ」(Protection and Promotion of Thai Traditional Medicine Knowledge Act に基づく)に位置づけ
- THC 0.2% を超える抽出物は麻薬に分類 され、特別ライセンスがなければ違法
- 大麻の販売・所持・使用は 認定された医療目的に限定
- 医療大麻関連の営業ライセンスは 登録医療機関・薬局・ハーブ薬局に限定
- 「麻薬への再分類」ではない 点が重要 —— Narcotic Act 上の麻薬に戻したのではなく、伝統医療知識保護法のもとで管理対象ハーブとした
2026 年 5 月: 追加の販売規制
2026 年 5 月の報道(Khaosod English、5 月 16 日付など)によれば、タイは医療大麻販売の管理をさらに強化:
- 大麻製品の 調剤に公式の処方箋様式 が必要
- 患者 1 人あたりの供給は 最大 30 日分 に制限
- 処方は 医師・薬剤師・歯科医・認定された伝統医療従事者 が発行、有効期間は最長 30 日
- 認可店舗は営業時間中、医療大麻の基礎知識訓練を受けたスタッフ の配置が必要
- 大麻花穂は床から離して保管し、臭気・煙の管理システム を備えることが要求される
影響
市場の急縮小
- 新規制の要件を満たせない、またはライセンスを更新しない店舗が続出し、7,000 店を超える大麻ショップが 2026 年初頭までに閉鎖 したと報じられている
- 観光客向けの嗜好用販売を主力としていた事業者は大きな影響を受けた
政治的経緯
- 2022 年の規制緩和を主導した プームジャイタイ党 と、見直しを進めた プアタイ(Pheu Thai)党 中心の連立政権の間で、大麻政策は長く論争となってきた
- 結果として、麻薬への全面再分類は回避 しつつ、医療用限定+厳格管理 という中間的な着地となった
観光・渡航者への影響
- 「大麻ツーリズム」を前提とした旅行情報は 2025 年 6 月以降、実態と大きく乖離 している
- タイで嗜好目的に大麻を入手・使用することは、新枠組み下では原則として認められない
日本との関係
- 日本国民がタイで大麻を使用・所持した場合、タイ国内法上の扱いにかかわらず、日本の大麻取締法・関連法令の国外犯規定 により日本国内で処罰される可能性がある
- 日本の外務省・厚生労働省は渡航者向け注意喚起を継続している
出典